ワークショップ報告

----- 心の叫びをいかに聞くか -----

     2月1日、ケアファンドの新しい試みとしてアーリントンの教会で行われた「聞き方セ ミナー」 に は、氷雨の降る中、男女合せて30人近い参加者があり、カウンセラーの講師を囲んで活発な討議が行われました。  講師は Crisis Linkという電話相談会社の職員二人で、ケアファンドのように困っている人達を支える組織 のメンバーが、どのようにして相手の話を聞き、どのように対応したらいいのかが話しあわれたのですが、その過程で、単にホットラインで助けを求める人と その電話に答える人 という関係だけではなく、夫婦、 親子、友達どうしなど、もっと広範囲の人々の 日常のコミュニケーションのあり方についても、極めて示唆に富んだ話を聞くことが出 来ました。

    講演は大きく分けて二つからな り、前半は主に困っている人の話の聞き方(The Art of Listening) につい て、後半は話を聞く側の精神衛生について、でした。 二人の講師は、ホットラインで実際によく起るような話のやり取りを演じて見せること で「アクティブリスニング」とはどうすることなのかを具体的に説明し、参加者もまたお互いに話し手と聞き手の役割を演じてみることでその理解を深めること が出来る仕組みになっていました。 また 聞き手が話し手と一緒に問題のとりこになってしまわないよう、常に一定の距離を保ち ながら相手を支え続けるにはどうしたらいいのかについても、具体例を用いた説明がありました。

    危機に直面した人は、往々にし て恐怖や怒り、恨みや絶望など、強烈な感情にとらわれていて、いつものように醒めた理性で物事を処理することが出来なくなっています。 そんな人を助けるには、まずその 人の言い分を徹底的に聞いて、荒れ狂う感情を静める手伝いをすること、つまり「アクティブリスニング」が必要になります。   然しそれもただ黙って相手の言うことを聞くだけでは足らず、相手の感情に全力で注意 を払いながら、尚、「批判せず」「評価せず」「同情せず」「教えようとせず」「答えを出そうとせず」「誉めもせず」ただひたすら耳を傾け、あくまでも「話 し手自身に問題を考えさせ」「出口を探させ」「感情の高ぶりから醒めさせる」 ように聞かなければなりません。  その作業の難しさ・・・ それは重々認めながらも、講師は こうした聞き方は誰でも学び得るし、そのテクニックを知れば日頃から練習を積んで、 いざという時の役に立てることも可能だと強調しました。

    「裁かず」「指導せず」「哀れ まず」「無理に結論を出そうとせず」「あたかも誰かが静かに眺めているかのように」 その人の感情に注意しながら ただひたすら聞く、という アクティブリスニングの根幹にあるのは、共感(Empathy)の概念だといいます。  それは聞き手が 「自分自身の立場を保ったまま」 相手の言うことが理解出来、相手の痛みや苦しみが分かる、ということであり、またそ れを言葉や身振りで相手にフィードバックすることであって、同情(Sympathy)とは別の物です。  話し手は誰かがこの「共感」を持って話を聞いてくれる時、初めて本当に自分の苦しみ が理解されたと感じ、心の重荷を下ろすことが出来るといわれています。

    それでは こ うした ア クティブリスニング テクニック にはどんなものがあるのでしょう か。  それを講師の話に従って、以下に簡単にまとめてみます。ただここで重要なのは、問題 を抱えているのはあくまで話し手の方であって、それを聞き手が解決してあげるのではないこと、殆どの答えは話し手自身が出さなければならないし、現に出す 力を持っているということです。 ここでの 聞き手の役割は、話し手の苦しみに一心に聞き入ることで、そうした話し手自身の問題 解決能力を引き出し、その人が自分で答えを見つける努力を、そっと横から援助することにあります。

 

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  • Encouragers ----- ただ黙って話を聞くのではなく、ふんふんとかそうねとか、話の内容に応じた相づちを うちながら聞く。それが話をし易くするだけではなく、話し手にとって本当に真剣に聞いてもらっているという満足感と開放感を与える。但し聞き手は単なる相づちの積りで も、You are right  とか  Of course  とか いった表現を連発すると、話し手は自分の言い分に賛成して もらえたものと錯覚して、一層自分の意見に固執することにも なりかねないので、言葉の選択には注意を要する。

  • Silence ----- 話し手によっては、ひとこと 言うごとに気持 ちを整理し、次へ進む勇気を奮い起すのに かなりの時間を要する人もある。 話し出してはみたものの、感情が高ぶっていて 思うように話が出来ない人もあ る。 従っ て聞き手はいたずらに先を促してはならない。 沈黙に耐えてじっと待つ、それも上手に聞くことの一部と考えなければいけない。

 

  • Reflections ----- 深刻な内容であればあるほ ど、聞いたままを もう一度繰返すことで、話し手に自分が言っていることの意味を再確認してもらう。 「自分はもう死にたい」 と言う人に対しては、「今の貴方は本当につらくて、もう死にたいと思うのですね」と だけ言い、「そんなことありませんよ、貴方は全然大丈夫ですよ」とか、「自殺は絶対にいけません」とかは言わない。

 

  • Open-ended Questions ----- 話題が複雑化して答 えに窮する時や、話し手がしつこく聞き手の意見を求める時には、逆に聞き手の方から質問を投げかける。 それも話し手の方が考え、答えねばならないような質問が望ましい。例えば話し手が一 方的に文句ばかり並べ立てる時には、「それなら貴方はどうするのが一番いいと思われますか」とか「それで 貴方は今日の話し合いから何を期待し ておられるのですか」といった、話し手の方が 考えなければならないような質問を出す。

 

  • Summaries ----- 聞いた話の中にあったことだけを、そこに出 てきた言葉を使って手際良くまとめて繰返し、こういう理解でいいのですねと、話し手に確認した上、「こんな場合、貴方は今までどういう対応をしてきたので すか」とか「それで貴方はどうしたいのですか」という風に、話し手自身の考えを引き出す方向へもっていく。 話し手は自分の中の圧倒的な感情にさ えぎられて考えにまとまりがつかないことが多く、このように要点をまとめてもらった上で、さあどうしますかと聞かれると、意外に自分なりの答えをもってい たことに気付くことも多い。

 

  • “I” Statements ----- 話し手の期待が大き すぎたり、 聞き手の方へ問題解決の責任を転嫁したりするきらいがある時は、聞き手の方から「自 分に出来ることはここまでです」とか「私には分らないけれど こういう専門家は紹介出来ます」という風に、自分に出来ることと出来ないことをはっ きり伝えて「共倒れ」を防ぐ。 ただ自分としての支持の限界を示す時には、常に別の援助の可能性を出して見せる必要 がある。

 

  • Culture ----- 一般の日本人のように あからさまな感情の表現が出来にくい人々もいる。 然しこれは文化の違いにすぎず、 どちらが良くて どちらが悪いといった性質の問題ではない。   その場合でも 「貴方には感情表現が難しいようですが、話せるだけでいいですから話してみて下さ い」 と 言って、対話を試みることは出来る。    また聞き手は 聞き手になった途端に何らかの解 決策を出すことを期待されるような文化もあるかもしれない。  そん な文化の下では、単に受容的で共感に満ちた聞き方をしてくれるだけでは、話し手は満足しない事もあるだろう。  然し、お互いを知り尽したような仲ですら、聞く側が「答えを与える」ことには色々な 問題がある。まして相手の顔も見えず、問題の全体像もつかめているかどうか不明な電話相談のような場合には、それだけの話に基いて指示やアドバイスを与え ることは極力避けるべきである。 

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        以上が当日示されたアクティブ リスニングの手法の一部ですが、これを見て頂ければ分るように、相手の話を聞くという作業はあくまでも「聞き手が答えを出す」ので

はなく、「話し 手自身の 問題解決能力にゆだねる」 ことが鍵になっています。このプロセスがうまく機能する時、困っている人は心から納 得して自分のおかれた状況に直面することが可能になるといわれています。

 

        このあとワークショップの後半 では、聞き手の側の精神衛生、つまり問題に深入りしすぎて聞き手の方が倒れてしまうこと(いわゆる burn-out) がないようにするにはどうしたらいいのかが検討されました。

 

        自分と似たような状況にある人 が、どのようにしてその苦境に耐えているのかを知りたいと思うのは自然な人情で、相談を持ちかける人は勢い相手の個人的事情を知りたがります。それにひか れて自分の側の話をするうちに、聞き手自身が問題の泥沼に引きずり込まれてしまうという危険性、それをどうやって避けたらいいのか、どこで 同情と共感、私情と公益、共倒れ と開放 の 間の一線を引くのか、が話し合われました。

 

    この点に関する単純な答えはな さそうで、多分に「場数を踏むうちに見えてくる」 としか言いようがなさそうでしたが、それでも個人的な話へ引き込まれそうになったら すぐ、話を最初の(話し手の)問題の方へ優しく押し戻すやり方の幾つかは、講師が実演して見せてくれました。彼等は  Professional Boundaries という言葉を使いました が、聞き手の生活のプライベートな部分までコミットしなくても、苦しんでいる人に信頼され、その役に立つことは出来る、という明確な意識、それが必要とい うことのように見えました。
                                                  
(
2/2/03  YK)


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