セ ミナー報告

「生 活の質を高めるための老後設計」

                                                                ワイルス 蓉子 


  今年最初のセ ミ ナーは上記のテーマで、2月7日にグレートフォールス図書館で開かれました。 前日まで非常に寒く、そのために降った雪が氷状になって、皆様出席していた だけるかどうか心配していました。 ところが、2月7日は、きれいに晴れ上がった日になって気温もあがり、雪も溶けて、本当にほっとしました。 出席者は 21名、中島美津子メリーランド大学福祉学部助教授のお話に熱心に耳をかたむけていらっしゃいました。
 

  ミズーリィ州 カンサス市のホスピスで、6ヵ月の余命を最後まで楽しく生き抜いた16人の高齢者へのインタビューをもとにして、中島先生は博士論文を書かれました。 こ のセミナーは、そのときのインタビューからの具体的な例を挙げながら、高齢社会を如何に生きるか、如何に生活の質を高めていくかについて話してくださいま した。 以 下は先生のお話の要約です。

    

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  「16人の高 齢者の共通点は、それぞれ自分の長所をいかして、ポジティブにシニアライフを過していらしたということである。 人間はとかく自分の弱点を気にしがちだ が、自分の弱点に焦点をあてて、それを治そうとするのが欠陥モデル(deficit model)である。 長い間、この欠陥モデルがケアの主流だった が、15年位前から、自分の長所、得意なこと、情熱を注げるような楽しいこと、意義のあることをみつけて実行するという強化モデル(strength− based model)がケアに有効だと言われるようになった。 この強化モデルを実行することは、自分の成長に繋がり、生活をより良い方向に変えるこ とが出来るからである。

 

自分の長所や強さと環境

  謙遜を尊重す る日本の文化で育った人は、自分の長所、強さ、と言われてもなかなか考えつかないかもしれない。 そういう人が、自分の強さをみつけるには、1)困難を乗 り 切った経験の詳細を誰かに話す、2)親しい友達に自分の長所は何かと聞いて見る、3)自分の強さのシンボルを探す等の方法がある。 個人の強さには、楽観 的、社交的、頭脳明晰、強い意志、芸術の才能等がある。 環境の強さとは、人間関係、住んでいるところの生活環境(近所やコミュニティの人々や環境)、福 祉サービス等である。 これらを上手に組合わせることによって、生活の質を高めることが可能である。 

 

1) 支援のネッ トワーク: 経済的な面で頼れる人。 実 際的な面 で頼れる人(買物、税金の申告書作成、医者との交渉等)。 情報を提供してくれる人、または情報が正しいかどうか教えてくれる人。 悩みを聞いてくれた り、一緒に遊んでくれたりと、心の支えになる人。 こういうようにいろいろな面のサポートをしてくれる人が、家族・友人のなかにいること。 また、ペット でも心を癒されることがある。

 

2) 生活環境: 生活環境に満足できるような住居に住むこと。  例えば、自然の好きな人は、自然に 親しむことが出来るようなところに住むことである。

 

3) 趣味をもつ こと: ホスピスに入院しているお祖母さんの部屋 にエレクトロニック・オルガンとコンピューターがあった。 若い時にちょっと弾いたことがあるけれど、クリスマスに家族からオルガンを贈られて、また新た にオルガンを習い始めた。 また、日本にいる孫とE―メールを交わしたくて、コンピューターも習ったとのことである。 このように楽しみ や趣味は幾つになっても何時でも始められる。 
 

4) 家族・友人 等、人の役に立つことをすること: 日本では、よ くお祖父さんやお祖母さんが孫の面倒をみる。 インタビューした16人の高齢者の殆どが、人の役に立ちたいと言っていた。 例えば、ハリーさんはかつてア ルコール依存症だった。 AA(アルコール依存症の人を支援する団体)に通ったおかげで、依存症から抜け出して20 年になる。 AAは、新しくはいってくる人を、古い会員がスポンサーになって、面倒をみることになって いる。 ハリーさんは肺病で機械をつけているので家からは出られない。 そこで、電話でいろいろとアドバイスをしたり、家に来てもらったりしている。 こ んな身体になっても人の役に立つことが出来ると思うと、本当に嬉しいとハリーさんは言っている。 この人助けが、ハリーさんの命を支えているのである。 

  もう一人は、 ダビッドさんである。 彼は環境問題の学者で、カンサス州では行政府の高官であった。 彼は癌だけでなく、背骨にも障害があって車椅子の生活である。 彼 は今までの経験を活かして、環境保護を訴えるネットワークをつくって、Eーメールを使って関係者に手紙を送る等、環境保護運動をしていた。 

 

  このように人 や世の中の役に立つということは、趣味や楽しみと同じように、自分の命を支え、生活の質を高めることになる。 そして、自分に合った趣味や、生き甲斐にな るものをみつけるには、若い時から心がけておかねばならない。

 

5) 過去のこと を話す: 年寄りが思い出話しをしていると、若い人 達は、「昔話しばかりしている」と言う。 しかし、人生の総決算という意味でも過去を振り返ってみることは大切なことである。 ことに、傷つけられたこ と、傷つけたこと、辛い思い出等、所謂「心の傷」を語って、自分の気持ちを整理することが必要である。 また、その反対で、楽しかった思い出とか、何をや り遂げたかというようなことを、人に話すことも人生の総決算ということで大切である。 一人か二人でもいいから、興味をもって聞いてくれる人や、思い出話 を交換できる人がいることが大切である。

 

6)未来への希 望 夢のような大きな希望でなくても、現実 的な希 望をもつこと。 ホスピスにいらしたこれらの16人の方達も、「孫の卒業式に出席したい」とか、「イースターにもう一度着飾って教会に出かけたい」という ような現実的な希望を持っていた。 それから、これは希望ではないが、何かやっておかなければならないことがあったら早く片付けること。 それを片付ける ことによって心のなかに余裕が出来て、他のことをするエネルギーが出てくる。

 

7) Spirituality: これは、生きることの意味を深 く掘り下げて、それが考える土台になるものである。  宗教を信じている人は、宗教によって回答を得ることができるが、特定の宗教を信じていない人は、宗教以外のもので人生の意味を見出さなければならない。  自分が宇宙のなかで生き、それによって支えられていることを教えるのが”Spiritualityである。 宗教以外にも、お祈り、瞑想、森林浴、読書、会話等で、自分なりの “Spirituality”を育てることが出来る。 

 

  以上述べたな かから、自分に合いそうなものを一つか二つ選んで実行することもよい。 自分の好きなことをすると肯定的な感情が起こってきて、それが否定的な感情を消 してくれる。 人間は、肯定的な感情と否定的な感情を持っているが、二つの感情のバランスが、肯定的な感情中心となるような生き方をすることによって、人 生が開けてく る。

  高齢生活を リッチ に生きていくためには、以上述べた七つの項目を検討して、命の質を高めていくことが必要である。」 


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  お話が終って から、活発な質疑応答がありました。 皆様の質問に丁寧にお答えくださった、中島先生、本当に有難うございました。 高齢者の方も、これから高齢になられ る方も、人生の後半を健康に、そして満足のゆく豊かな人生の日々をお送りくださいませ。



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