ケ アファンド セミナー報告

「海外生活と心のケアについて」  
   

2004年4月25日、精神科医の重村淳(しげむらじゅん)先生を 講師としてお迎えして、ストレスとその対処法に関するセミナーを開催しました。ケアファンドのオフィスがあるFred M. Packard Centerの会議室には当日、23名の出席者がありました。
  重村先生は防衛医科大学校 精神科学講座 助手をなさっておられますが、現在 Uniformed Services University of the Health Sciences精神科客員研究員として当地においでになっています。 先生はスライドをふんだんに使い実例 をあげながらストレスとは何か、ストレスがたまるとどうなるか、アメリカ生活からくるストレスは何か、そしてストレスにどう対処したらよいかを分かり易く 説明してくださいました。以下は重村先生のプレゼンテーションの要約です。

 目次

1. なぜ海外生活で心のケアが必要か?
2.
ストレスとは何か?
3.
ストレスがたまる と?(一般論)
4.
ストレスがたまる と?(子供の場合)
5.
非常に強いストレス を受けると?
6. アメリカ
生活のストレ スは?
7.
どうやって心をケアするか?

 

1. なぜ海外生活で心のケアが必要か?

人間は生きて いく以上、ス トレスから避けることが出来ません。アメリカで生活している場合は、なおさらです。日本にいる家族や友人から離れて、日米間の文化・生活習慣の違いや、言 葉・治安の問題に対処するのは決して簡単ではなく、時には心身に影響を及ぼす場合があります。つまり、「ストレスがあって当たり前」なのです。そのため、ストレス対策をはじめとする 「心のケア」は、アメリカ生活を送る全ての人が、健康管理のために考えるべき課題です。

し かし、実際、どうやって ケアすればよいのでしょうか?アメリカでは、カウンセリングなど、心のケアは一般的です。しかし、母国語を日本語とする人が心の問題を持ったとき、微妙な 感情の変化や文化の違いを英語で相談するには、どうしても限界があります。そのため、日本語で心のケアが出来るシステム作りが急務となっていますが、当地 では専門家が極めて不足しているのが現状です。

そ うしますと、アメリカを生活を送る者にとって重要なことは、それぞれがストレスをうまく自己管理して、必要以上のストレスを解消させることです。これか ら、その具体的な方法について記します。


2.
ストレスとは何か?

ス トレスという言葉は、日常的に何気なく使われますが、その実態は意外にも知られていません。ストレスは少なければ少ないほど良いのでしょうか?実はそうで はないのです。

ス トレスは多くても少なくてもいけないのです。適度なストレスこそが、最も生産性や意欲を高め、心身の健康をも高めるのです。また、悪いことばかりがストレスとは限 りません。結婚、出産、引越しなど、本来なら喜ばしいことも、ストレスになりえます。

 
3. ストレスがたまると?(一般論)

上 で書きましたように、ある程度のストレスは、人間にとってむしろ必要です。しかし、必要以上にたまると、心身ともに悪影響が出ます(表1)。 その結果、自分でストレスをまぎらわそうとしてアルコール・タバコ・クスリを用いたり(しかし、結果的に体を害してしまいます)、本来やるべきことが出来 なくなります。

さらにストレ スがたまると、うつ病やアルコール依存症などの心の病に発展したり、夫婦関係、親子関係などで障害が起きる場合があります。そうなると、自分自身で事態を 良くするのは非常に難しく、心の専門家が必要となります。

表1 ストレスがたまっている徴候


疲れる(心身ともに)
楽しみがなくなる
充実感がなくなる
作業の効率が落ちる
問題解決できなくなる
集中力がなくなる
不安になる
イライラする
落ち込む
他の人から孤立する
皮肉っぽくなる
疑い深くなる
被害的になる



4.
ストレスがたまると? (子供の場合)

ス トレスがたまるのは大人に限らず、子供にもたまる場合があります。しかし、子供の場合は、思っていることを全て言葉で表すことが出来ません。そのため、体 の不調、行動の変化として出る場合が多いです(表2)。また、親のそばにいて不安を解消させる気持ちが高まるため、、「構ってほしい」気持 ちが強くなります。その結果、幼児返りを起こしたかのように甘えることがあり、これを「退行」と呼んでいます。

表2 ストレスがたまっている徴候(子供の場合)


気分の変化
    イライラ
    怒りっぽい
    元気がない
    必要以上に元気になる

体の不調
    腹痛、下痢
    眠れない
    頭痛
    トイレへ繰り返し行く
    おねしょ
    子供の特徴

行動の変化
    注意力が落ち る
    集中力が落ちる
    成績が落ちる
    学校へ行きたがらなくなる
    危ないことをする
    退行
*親に甘える
*親から離れない
*幼児言葉を使う


5.
非常に強いストレスを受けると?

命を脅かされ るような非常に強いストレスを受けると、一瞬で心の傷(ト ラウマ trauma)を負い、その痛手が長い期間にわたって続くことがあります。この話を持ち出す理由は、ワシントンDC地域が、都市機能のの性質上、テロリズ ムの脅威に慢性的に晒されているからです。つまり、住民の誰もがそのようなストレスを受ける可能性があるため、そのことを知っておく必要があるのです。実 際、最近アメリカで起きた同時多発テロ、炭疽菌テロなどでは、一般市民の心の健康が影響を受けたとの研究がたくさん報告されています。

ト ラウマを引き起こす出来事としては、自然災害(地震、台風など)、人的災害(犯罪、事故、戦争、テロリズム)が有名ですが、実は身近なところにもあり、家 庭内暴力(domestic violence)、小児虐待、家族の死別、癌などの病気が挙げられます。また、直接に災害などの被害を受けなくても、その惨状を目撃する救援者(警察、 消防、医療福祉関係者、相談員など)には、職業上、その危険があります。

ト ラウマにより生じた後遺症は外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder: PTSD)と呼ばれています。アメリカでは、ベトナム戦争の帰還兵の多くがこれに悩まされたのをご存知かもしれません。ここで注目したいのは、心の傷を癒 すのも広げるのも、周りの人々次第ということです。周りの人のサポートや理解力が回復力を上げる一方、周囲の心ない一言が傷を深めるのです。なお、先のベ トナム帰還兵の場合も、帰国後、必ずしも社会に歓迎されなかったことが、彼らの後遺症の深刻さに関係していると報告されています。


6.
アメリカ生活のストレスは?

海 外生活でのストレスの原因は、その人の立場によって様々ですが、全ての人に共通していることは、ストレスの種類が非常に多く、しかも、その内容がバラエ ティに富んでいる、ということです。

実は、アメリ カ生活のスト レスは、アメリカに来る前から始まっています。それらは、渡米する目的、動機付け、都米後の状況の安定性などによって決まります。また、アメリカ生活の準 備を行うための情報収集もストレスとなります。アメリカ生活の情報量は限られている上に、手順が全く分からないゆえに、勝手が分からないことへの不安が生 じやすいです。

渡 米してからは、生活の内 容が日本と異なってきます。たとえば、仕事や学業では、その質と量が、ともに変わってきます。それに伴い、労働・学習時間、経済状況、責任感などが変わっ てくるのは言うまでもありません。職場を例に挙げると、アメリカの職場の多くは、日本のそれとは比べ物にならないほど、国籍、職種、採用形態、勤務体系が バラエティ豊かです。そして、そういう人たちとコミュニケーションを取る必要があるのですが、そこでは語学力、文化の違いが大きな問題となりえます。

人 間関係といえば、家族 (特に夫婦、親子)や友人との人間関係も変わります。先程、渡米の目的は各自異なると書きましたが、これは夫婦や親子においても同様なのです。配偶者の渡 米についていく立場の人の場合は、退職・転職など、それまでの社会との関わりが劇的に変化するので、なおさらです。また、健康、育児、教育問題も、日本と はシステムが全く異なるゆえに、ストレスとなりえます。国際結婚の場合は、親族が他国にまたがるため、状況がより複雑化する場合があります。

友 人との関係は、大きく分けて日系コミュニティとそれ以外に分けられますが、特に前者の場合は、独特なものになりがちです。それは、「狭い日系コミュニティ」ゆえに、関係の取り方が異なってくるためです。その関係 が良い方向に働けば、お互いを助け合う方向に進みます。しかし、その逆の場合は、お互いの軋轢となったり、公私の区別がつけづらくなる場合があります。
 

7. どうやって心のケアをするか?

す でに冒頭で書きましたように、アメリカ生活ではストレスがあって当たり前」なのです。

そうすると、 まず、ストレスがあって当たり前」ということを、まずは認識し、その上 で、何がストレスなのか、自ら原因追求した上で対処することが必要なのです(図1)


1    心のケアにおける基本的考え


では、そのス トレスをどのように対処するかどうかですが、それは図2をご覧下さい。簡単に申し上げますと、「ストレスが変えられるのならば、自分で変え てみよう。もしそれがダメならば、その現実を受け入れよう。」ということです。


 2    ストレス対処の基本的考え

ストレス解消 には(a) 時間管理、(b) リラクセーション、(c) 運動の3点が重要とされています。ストレス解消にあたっては、自分だけではなく、家族・同僚のストレスにも注意し、お互いがストレス解消できる方法を選ぶ ことも重要です。

(a) 時間管理
我々は、行いたいことを100% 実行することは不可能です。そうすると、時間を自ら管理して、生活の中で何を優先して行うのか順位をつけて、より必要なことを行うことが、実は最も成果が 上がる方法なのです。成果が上がれば上がるほど、ストレスがたまりません。また、時間管理を行うのは、後のリラクセーション、運動の時間を意識してつく る、という意味もあります。

(b) リラクセーション
大切なのは、自分自身が楽しめるか、そのための時間を取れるかどうかです。楽しめるのならば、それは一人でも複数でも、屋内でも屋外でも構いません。

(c) 運動
運動がリラクセーションと異なるのは、運動では、心だけで なく体もほぐれるのが特徴です。リラクセーション同様、自分が楽しめるのならば、どういう形でも構いません。


これらの方法 で、自分自身でストレスを解消するのが理想的です。しかし、もしそれが難しい場合は、
自分で抱え込まず、家族、友人、同僚らに相談して下さい。それでもダメな場合、心 の専門家に早めに相談をして下さい。      

なお、ワシントンDCで、日本語が出来る心 の専門家はごくわずかなのが現状です。日本でしか免許を持っていない専門家もいます。そこで、私は現在、心の専門家ネットワークをボランティアで作ろうと 動いているところです。これにあたっては、DC地区の各日本人団体に協力を呼びかけております。その結果、この地に住む人々の心の健康に少しでも役立てれ ば、と思っています



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